大阪市は、市立小中学校の給食費を恒久的に無償化する方針を固めた。
ABCニュース(朝日放送)2023年2月14日『市立小・中学校給食を“恒久的に”無償化へ 大阪市が政令指定市で初の取り組み 新型コロナ対策で過去3年間実施』が報じている。
報道によると、2020年度以降「新型コロナ問題に伴う家庭の経済環境悪化に対応する」として時限的に無償化していたのを、恒久的に無償化する方針へと切り替えるとしている。
給食を「学校における食育の生きた教材」と位置づけるなどし、無償化に関連する予算約68億円を計上した。
期限を切らない形での恒久的な給食費無償化は、政令指定都市では初めてだとみられる。
これに対する吉村知事(前市長)の反応
しかしこれに対して、吉村洋文大阪府知事・前大阪市長・維新共同代表がおかしな反応をしている。
市立小・中学校給食を“恒久的に”無償化へ 大阪市が政令指定市で初の取り組み
→強烈だ。しかも小・中学校両方だよ。所得制限なし。維新誕生前の大阪市では中学校給食すらなかった。愛情弁当論。大阪自民党の持論。過去に戻るのはまっぴらゴメンだ。維新市政でここまできた。 https://t.co/3iOXV2o8IL— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) February 14, 2023
これは事実を都合よくねじ曲げたもの。
大阪市での中学校給食導入は、以下のような経過をたどってきた。
- 1970年代 同和行政との関連で、一部の「同和教育推進校」とその関連校のみ中学校給食を導入。しかし市教委は、同和校以外の学校での給食導入は「愛情弁当論」として拒否。
- 1990年代 共産党が、当時の市会会派としては初めて「全中学校への給食導入」を掲げる。食育などの観点を訴える。当時から不公正乱脈だと批判されていた同和行政との関連でも、「給食を全校に広げることが、不公正な同和行政の解消にもなる」と主張。
- 2000年代 不公正乱脈な同和行政が問題となり、当時の関淳一市長が、同和行政見直しの一環として、同和校での中学校給食の廃止を決める。
- 2007年 「中学校給食実現」を重点公約のひとつに掲げた平松邦夫氏が大阪市長に当選。それまで中学校給食導入に懐疑的だった会派も、導入推進に転じる。
- 2010年 橋下徹大阪府知事、中学校給食導入への大阪市への補助を拒否。
- 2011年9月 平松邦夫大阪市長、2012年度からの中学校給食導入予算を市会に出し、可決される。
- 2011年11月 大阪市長選挙で平松邦夫市長落選、橋下徹氏が市長になる。
- 2012年 選択制弁当方式での中学校給食開始。
維新だけが中学校給食を導入・推進したわけではないというのが、史実である。
そして「愛情弁当論。大阪自民党の持論。」というのも、大阪市会の議事録を調べると面白いことが浮かび上がる。
当時「愛情弁当論」を主張して質疑していた自民党市議は、その後こぞって維新に移り、維新の重鎮メンバーとなっている。
大阪市の中学生の昼食については、学校による区別はなく、すべての学校で平等に、また親にとっては忙しいということはあるんですけども、私としては、親子の関係が希薄になっている今、愛情弁当を学校に持たせるということはやっぱりいいことだというふうに考えます。
2007年5月14日 大阪市会文教経済委員会 辻淳子市議(西成区)※現・維新
私はどちらかというと愛情弁当の、今、こんだけ親と子の関係が希薄になってる時代、中学校の3年間、お弁当をつくってあげるということも親としては大変な、子供との関係をやっていくわけで大切な部分ではないかなというふうな考えで質問させていただいてるんです。
2007年12月26日 大阪市会文教経済委員会 辻淳子市議(西成区)※現・維新
中学生の昼食についてでありますが、(中略)我が会派も、愛情弁当を基本としつつも、弁当を持参できない生徒に対するセーフティーネットとしての施策が必要と考えており、従前から効率的で効果的な方法について議論してまいりました。
2008年3月4日 大阪市会本会議 東貴之市議(西区)※現・維新
中学生の昼食についてでありますが、近年、食を取り巻く環境が大きく変化する中、望ましい食習慣の形成や食に関する知識と食を選択する力の習得など、成長期にある子供に対する食育が重要となっております。食に対する基本的な生活習慣の形成には家庭の役割が大切で、家庭からの弁当持参は親と子のきずなを深めるよい機会であり、家庭弁当の果たす役割は大きなものがあると考えます。
2009年3月3日 大阪市会本会議 井上英孝市議(港区)※現・維新衆議院議員
そして今の大阪自民党に残っている側の、当時の質疑も。
次に、昨年4月に中学生の昼食に関する方針を定めて、家庭から弁当持参を基本とするということを教育委員会は言うています。この弁当というのを私自身考えて、愛情弁当とおっしゃっておりますよね。愛情弁当というのは何から何まで愛情なのか。弁当を持ってくるから愛情なのかということを、私ちょっと疑問に思うとこがあります。
2008年3月14日 大阪市会文教経済常任委員会 大西宏幸市議(生野区)※のち自民党衆議院議員。
さらに、給食費無償化の問題では、維新がどのようなことをいっていたのか。
2019年4月の大阪府知事選挙では、維新が擁立した吉村洋文候補と、自民党が中心となって擁立した「非維新」候補などが出馬し、吉村氏が当選した。
その際、当時候補者だった吉村氏は、何を言っていたのか。
給食費無償化は共産党の主張だよ。ちょっとひどい。財源論を無視。年300億の巨額財源どうするの?橋下知事時代に始めた高校私学無償化に否定的だったと聞いてるので、これをやめるのかな。私学無償化は年200億円。これを辞めてもあと100億円も足りないよ。https://t.co/hP000q1Np4 @YahooNewsTopics
— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) March 17, 2019
明らかに、給食費無償化を否定する主張をおこなっている。
維新が中学校給食を導入したとか、給食費無償化を主張し続けてきたとか、事実に反するということになる。
中学校給食導入や給食費無償化については、全国的にも食育や貧困対策などを背景とした世論の高まりを反映している。必ずしも大阪市だけの特異な課題ではない。
全国的にも同時期に、中学校給食未導入の自治体での給食導入が進み、国レベルでも給食費無償化を求める動きが出るなどしている。これらの動きは住民世論の反映でもある。
給食費無償化については、全国的な流れでもあり、事業自体は歓迎ではある。しかし、維新だけが一から主張してきた・維新だけが動かしてきた、他の政党等が否定的な見解を取っていたというものではない。
事実をゆがめ、まるで維新が一から作り上げてきたというのはどうなのか。