新潟県新発田市立中学校2年だった男子生徒が2017年に自殺し、いじめがあったと指摘された問題。この問題について遺族が、「学校側の対応は不適切だった」「いじめ加害生徒の氏名が開示されていないのはおかしい」として、新発田市を相手取り約3000万円の損害賠償と生徒氏名の開示を求めた訴訟で、新潟地裁は2022年5月30日、原告側のいずれの請求も棄却した。
事件の経過
生徒は2017年6月25日、自宅で自殺した。生徒は学校でのいじめ被害を訴えていた。同級生がいじめの様子を証言し、また生徒本人も担任教諭に被害を訴えていたとされている。

第三者委員会は、生徒へのいじめがあったと結論づける調査報告書を出している。一方でいじめに関与した生徒の氏名については、「個人情報」を理由に非公開とする措置をとった。
遺族側は2020年1月に提訴した。新発田市がいじめ加害生徒の氏名を非開示にした措置について「遺族の知る権利を狭める。非開示にすることで『いじめ加害者は守られる』という間違った考え方が根付きかねない。加害生徒個人を責めるのではなく真実を話してもらうことが目的」と批判し、開示を求めた。また学校側のいじめへの対応についても、対応の遅れがあったと訴えた。
しかし新潟地裁判決では、いじめがあったことは認定したものの、学校側の対応については不合理があったとまではいえないと判断した。また氏名の非開示措置については、「いじめを主導していた生徒がいない」などとして、開示しないことは不法とまでは言えないと判断した。
遺族は判決を受けて、「学校側がいじめの情報を共有してくれていれば、息子の運命は変わっていたかもしれないと思う」などと記者会見で訴え、判決内容を不服として控訴も検討すると話したという。
判決内容は妥当なのか?
当該案件については、報道でうかがい知れる範囲でも、学校側の対応が後手に回っていたのではないかとも印象を受ける内容となっている。いじめ被害の訴えを受けた担任は「深刻な問題ではない」と判断し、被害生徒や相手側の生徒から詳しく事情を聴かなかったともされる。また別の教諭は、被害生徒が加害生徒から追いかけられるなどの行為を目撃していたともされている。この段階で情報を共有して対応していれば、最悪の状況は防げていたのかもしれない。
またいじめに関与したとされる生徒、いじめ加害者の生徒の氏名を不開示措置にしたことを容認したことも、疑問に思わざるをえない。不特定多数に加害生徒の氏名を公表するわけではない。被害者側に知らせることは、遺族側がいじめの全容をより詳細につかむためにも必要なことである。また加害者の氏名を隠すことによって、加害者は自分のしたことに向き合う機会が失われることにもなりかねない、そのことで「自分の行為は正当だ・許されている」と勘違いすることで、別のところで新たな被害者を生み出すことにもつながりかねないという意味でも、問題ではないか。