文部科学省は2021年12月8日、2022年度の教科書採択冊数・採択率を公表した。高校1年の国語の新科目「現代の国語」では、教科書の範囲外とされた小説を掲載した第一学習社の教科書の採択シェアが1位になった。
「現代の国語」科目をめぐる背景
2022年度1年より学年進行で実施される高等学校新学習指導要領に伴い、同年度入学生より高校の国語科目の構成は大きく変更される。
従来は主に1年で必修となる科目は、国語総合(標準4単位)として学習していた。近代以降の文章(現代文・現代国語)と古典(古文・漢文)の学習時間をほぼ半々の割合で授業を進めるとしていた。
しかし2022年度実施の新学習指導要領では、国語の科目構成が大きく見直された。「実用文重視」の方針を掲げ、科目構成も「実用的・論理的なもの」と「文学的なもの」という分け方に変えている。
高校国語では実用的な文章を扱う「現代の国語」(標準2単位)と、文学的な文章を扱う「言語文化」(標準2単位)の2科目に分けた上で、この2科目を必修科目とした。いずれも、主に1年での履修を想定している。大まかにいえば、「現代の国語」科目はこれまでの現代文のうちの評論文・論説文や表現の分野に特化したうえで教材の切り口も変えた科目、「言語文化」科目はこれまでの現代文のうちの小説や詩歌と古典を合わせた科目とされた。
これには、「実用的な文章」偏重で読解力がつきにくい、文学や古典を学ぶ時間が減る、そもそも文章を「実用的かそうではないか」という区分を図る事自体がおかしいなどの批判が起きている。
芥川龍之介『羅生門』を例に出すと、小説ではあり文学性も高いが、登場人物の心情の描写もわかりやすく、論理的な読みを学ぶ教材としてはよいものとなっている。一方で評論文や論説文に分類されるものでも文学的要素の強いものもある。「実用的・論理的か、文学的か」という区分には、それほど意味がないということになる。
教科書編成上の問題
新学習指導要領対応の教科書を作成する教科書会社に対して文部科学省は、「現代の国語」科目では小説を原則として掲載しないという説明をおこなった。
しかし第一学習社が、同社の発行する4種類の同科目教科書のうちひとつに、芥川龍之介『羅生門』などの小説5点を「書く力を高めるための教材」名目で掲載し、教科書検定に合格した。これに対して、文部科学省の指示を受けて小説掲載を見送った他社教科書会社が疑問を呈した。
教科書採択の結果、第一学習社の当該教科書が学校現場で人気となり、採択数は19万6493冊、採択率は16.9%と1位になった。2021年度の「国語総合」での8万7674冊(採択率7.2%、2位)から採択率を大きく伸ばした形になった。
学習指導要領の構成自体に無理がある
そもそも、学習指導要領の構成自体に無理があるという点から見直していく必要がある。
学問的にも教育現場の実態からも無理がある「論理・実用」と「文学」を分ける科目構成。そしてその構成に沿って教科書編成を強いられた多くの教科書会社。そして、抜け穴的な編成を使った教科書が出て、学校現場での違和感とかみ合った形になって支持されるという結果になる。
これは学習指導要領が変わらない限りは解決しないとみられる。