大阪市での「一部オンライン授業」について、ある大阪市立小学校の校長が実名で、再考や教育行政の改善を求める提言書を、2021年5月17日付で松井一郎大阪市長と大阪市教育委員会宛に送付した。
このことは、マスコミ報道でも報じられている。
提言書の内容はインターネット上でも拡散されている。当該校長が知人に内容を見せ、知人が当該校長にネット掲載の許可を取った上で、ネット上に掲載されたものだという。

校長は、オンライン授業に伴い「場当たりで学校現場が混乱」「児童・生徒・保護者の負担が重い」などの実態を訴えている。学力テストなどの実態にも触れ、『「生き抜く」世の中ではなく、「生き合う」世の中でなくてはならない。』『「競争」ではなく「協働」の社会でなければ、持続可能な社会にはならない。』として、学校現場での競争主義的な価値観の転換を図り、子どもの「学び」を保障したい、教職員も子どもに向き合いたいと訴えている。
校長の訴えは、学校現場の声を訴えているものだと受け取れる内容になっている。訴えの内容に共感する。
教育行政としては現場の声を真摯に受け止め、上からの押しつけではなく、学校現場の実態に合った支援や協働が強く求められている。
一方で、市側からは提言書に対して、きな臭い動きも起きている様子。
松井一郎大阪市長の見解
報道によると、松井一郎大阪市長は2021年5月20日、マスコミ取材に対して「提言書」への見解について言及したとのこと。
松井氏は「校長の考えというのは一つあるんでしょうけど、僕とは少し違う」として、校長の見解を否定した。オンライン授業については「子どもの命を守るのが最優先として、オンライン授業を活用した」と主張した。
校長が学校現場の実態を訴えたことについては「校長だけど現場が分かってない。社会人として外に出たことはあるんかなと思いますね」「疲弊してやりがいが見つけらないんやったら、違う仕事を見つけたらいい」などと、中傷やパワハラと受け取れる内容で非難した。松井氏は「現場が市長に意見を言う事自体はかまわない。処分の権限はないし考えてもいない」とはしたものの、「ただ、組織の中なので、組織の一員としてルール通りに運営してほしい」などとした。
大阪市会での質疑
さらに同日5月20日には、大阪市会教育こども委員会での質疑でも、校長の「提言書」問題が取り上げられた。
維新市議は、この「提言書」を問題視していると受け取れるような形での議会質問をおこなった。市教委事務局は、「事案発生から時間が経っておらず、当該校長には一度事情を聴く機会を設けただけにとどまっている」としながらも、知人を通じてインターネット上に文章を流したことや独断でマスコミ取材に応じたことを挙げて、職員基本条例に抵触する可能性があるとして、当該校長の行為に関する調査を進めた上で処分の可能性について言及した。
一方で自民党の一部と無所属議員の会派「自民・くらし」の市議は、「教育委員会は、現場の声をきちんと受け止めるべきだ」などとして、市教委の対応を厳しく批判した。
トップダウンでの弊害
今回の件での松井市長や維新議員・大阪市教委の対応は、トップダウン的な対応で教育現場が政治的に振り回されるとどのような悪影響を及ぼすかということを、最悪の形で示しているものとなってしまっている。
今回の「オンライン授業」問題だけでなく、大阪市では維新市政になってから教育のあらゆる分野で、首長のトップダウンや介入が目立ち、それに市教委事務局も追随して現場に押しつけているような形になっている。さらに、一部の議員まで圧力をかけるという状態になっている。
学校現場での創意工夫や、児童・生徒・現場の実態を訴える声がかき消されるだけでなく、首長の意に沿わない・ないしは市の教育行政の方針とずれるような意見を出したことそれ自体が問題があるかのような難癖ともいえる対応を受けて報復的な対応を取られるというのは、あってはならないことである。今回の件での松井市長や市教委の対応は、パワハラというべき看過できないレベルに達している。
そのような形ではなく、目の前の児童・生徒の状況にとって何が最善かという探究や、現場の教職員の創意工夫や意欲を生かすような対応などを、教育行政としては支援できるような体制を取っていかなければならない。そのためには、人員配置や予算配分などの形で支援できるようなボトムアップ型の教育行政が必要なのではないだろうか。
当該校長への処分などの不利益がなされないよう、状況を注視していくことが当面の緊急の課題だといえる。また、維新的な発想、競争主義的な発想から決別し、児童・生徒の状況に応じたていねいな教育ができるような条件を作っていくことも必要になってくる。