神奈川県藤沢市教育委員会が、市のウェブサイトで教科書採択に関する資料を公開している。これが興味深い内容となっている。

「令和3年度使用藤沢市教科用図書採択について」と題されたページ。このページには「第2回令和3年度使用藤沢市教科用図書採択審議委員会」(2020年7月1日)に提出された資料が公開されている。
サイトでは学校からの評価を示した「令和3年度使用中学校用教科用図書調査書まとめ」、教科書展示会での保護者や市民からのアンケート回答内容意見をまとめた「令和3年度使用教科用図書意見書一覧表」のpdfファイルが掲載されている。
- 令和3年度使用中学校用教科用図書調査書まとめ(PDF)
- 令和3年度使用教科用図書意見書一覧表(PDF)
これらの資料では、藤沢市で2011年以降採択され続けている育鵬社の社会科歴史・公民教科書が、学校からも保護者・市民からもダントツに評価が低いことが読み取れる。
学校からの評価
学校からの評価「令和3年度使用中学校用教科用図書調査書まとめ」では、「内容と観点」「分量・装丁・表記等」「教科・科目の観点」「生徒の実態や地域の特性との関連」の4項目についてそれぞれ、各学校がよいと判断した教科書を複数選択する方式となっている。
歴史では、4項目とも東京書籍が一番評価が高く、次に帝国書院が評価が高かった。同市では、この二つの教科書が圧倒的に評価されている形になる。この2つと差が付いた形で日本文教出版・教育出版・山川出版社・学び舎と続き、さらにほかの教科書を大きく下回る圧倒的な最下位評価として育鵬社がある形になった。育鵬社は「内容と観点」で2票しか入っていない。
公民では、4項目とも東京書籍が一番評価が高く、次いで一定の評価を得る形で帝国書院・日本文教出版・教育出版と続く。圧倒的な最下位争いで育鵬社(2票)・自由社(0票)となった。
「その教科書が適切である理由」とする学校からの自由記述欄も紹介されているが、育鵬社(歴史・公民)、自由社(公民)とも、学校からの自由記述がなかった。適切ではないから「適切である理由」など書きようがないということだと受け止められる。
教科書展示会での評価
教科書展示会アンケートの自由記述欄をまとめた「令和3年度使用教科用図書意見書一覧表」も興味深い。
育鵬社・自由社の教科書については、否定的な意見が圧倒的多数を占めている。
歴史教科書
歴史では147件中、明らかに育鵬社に好意的なものは4件のみ。ほとんどが育鵬社教科書を批判する意見だった。
日露戦争の記述、アジア太平洋戦争の記述、日本国憲法制定過程の記述など、具体的な事例を挙げて「史実の扱いが誤り、一面的」と批判する内容が複数あった。また「現場の教員が使いにくいものを押しつけてはいけない」という趣旨の回答も複数あった。
育鵬社の教科書(歴史)は、日露戦争の記述をみてあ然としました。「世界の海戦史に例をみない戦果を収め」など書かれていて、他社の記述(いろいろな世論があったこと、与謝野晶子の詩、重税に苦しむ人々のこと)のような多面的にとらえることができません。
・日本国憲法制定の部分・・・憲法がGHQからの押し付けだと言い切っているのはおかしい。女性の参政権についてなど、触れられていないことも多く、バランスが悪い。
・戦争についての記述が、全般的に「自衛のため」という書かれ方で、侵略について事実が書かれていない。歴史を学ぶのは、事実を学ぶ必要があると思う。事実をゆがめたものは使用しないでほしい。
歴史についても育鵬社は他の教科書とちがい、客観的事実に基づいていない表記が多いと思う。客観的事実にもとづき、自分たちが考えていける教科書が良い。またあつかっている人物も多く、育鵬社版は藤沢の中学生に必要がない。
これまでの藤沢市では、二期にわたって育鵬社の教科書が採択されています。現場の声を無視した形で。私は小学校教諭なので実際に育鵬社の教科書を使って教えたわけではありません。しかし、知り合いの中学校の先生方からは、育鵬社の教科書は使いにくい。入試に向かない。教えるべき内容を精選している。などと話を聞きます。そして今回実際に中を見ましたが、私も中学校の先生と同じように思いました。
公民教科書
公民でも、育鵬社および自由社は低評価となっている。公民に関する意見120件(歴史と重複する内容も含む)のうち、ほぼすべてが育鵬社・自由社に否定的なものとなっている。公民では、育鵬社や自由社に好意的な意見は皆無だった。
育鵬社の教科書をみました。平等権のところでわざわざ「夫婦同姓は合憲」を新聞資料に載せて、男女のちがいを強調した記述が各所にみられます。歴史も一面的です。育鵬社教科書はやめて下さい。
育鵬社の教科書の基本的人権のところも「公共の福祉」による制限ばかりです。人権の大切さこそ先生には教えてほしいです。育鵬社の教科書はきめつけ、しばり、心がけを教えるという、およそ憲法の精神とはかけはなれています。採択しないでください。
育鵬社の公民は、たくさんの問題を抱えており、藤沢の子どもたちにふさわしくありません。たとえば、憲法改正の問題でも改正の数が少ないことを強調し、改正ありきで2ページも説明を重ねています。さらに憲法学習のまとめで子どもたちに課題を指摘させ、改正案を考えさせています。例示に前文と9条があり、ここでも改正に子どもたちを導く構成になっています。両論あるならばきちんと両論について考えることができるようにすべきです。
育鵬社の公民は、平和主義=自衛隊一色のようです。他の教科書会社には、戦争の苦い反省から生まれた平和主義をしっかりおさえて書いています。又、沖縄と基地のところでも、「日米安保体制は日本の防衛の柱」として、「平和と安定に不可欠」としています。沖縄の人々がみたら悲しいです。育鵬社教科書(公民)は採択しないでください。
自由社・育鵬社…基本的人権の尊重についての説明が貧弱で説明になっていない。
育鵬社→第9条と自衛隊で政府見解をそのままのせるのは変。国民主権に天皇の写真がいっぱい出てくるのは変。
男女平等、家族。育鵬社の教科書は問題だらけです。多々ありますが、「行き過ぎた平等意識は、社会を混乱させ、個性を奪う結果になることもある」「男女共同参画社会とは、男女の違いを認めた上で互いに尊重し合う社会」はひどい。
公民は、教出が◎で、自由社と育鵬社は×。教出は最後に法律などの文面をのせていてよいし、憲法の記述も丁寧。自由社は道徳というか宗教みたいなページがある。公民って日本の文化伝統を伝える教科?!育鵬社は立憲主義の意味をわざとわかりにくくしている。そうとしか思えない。この2社は絶対やめて。
教科書展示会で寄せられた意見は、当方の問題意識とも一致するものだし、あちこちで指摘されてきた危険性とも一致するものとなっている。
現場の意見を反映した採択を
藤沢市では前回採択時も、育鵬社の評価が低かったにもかかわらず、育鵬社を採択した経過がある。「史実や学問的見解からはかけ離れた記述、おかしなイデオロギー押しつけ」「現場の教師にとっても授業がしにくい」ような教科書を、政治主導で押しつけるようなことは繰り返してはいけない。
藤沢市の教科書採択は2020年7月31日午後2時から実施される予定となっている。審議の経過を注視していく必要がある。