横浜市で教科書採択:中学校では育鵬社継続採択、小学校社会科は教育出版

 横浜市教育委員会は2019年8月1日、市立学校での教科書採択を実施した。

 小学校では新学習指導要領に基づく新教科書の採択替えの年となる。2020年~2023年の4年間使用される。

 また中学校では、2015年に採択し2016年度以降4年間使用した教科書の採択替えの年度となるが、新学習指導要領は中学校では2021年度から実施される予定となっている関係で、2020年度の1年間の採択となり、新学習指導要領に対応した教科書採択は来年度2020年度となる。

 横浜市では全教科について、2015年度に採択したものを2019年度採択でも継続採択とする「市教科書取扱審議会」の答申が出され、答申に沿う形で全教科を継続採択した。問題になっていた中学校社会科歴史的分野・公民的分野では、育鵬社教科書の継続採択が決まった。

 市立高校などについても採択がおこなわれた。

中学校:育鵬社教科書

 横浜市では、社会科の歴史・公民において、2009年度に当時行政区ごとに採択地区が分かれていたうちの一部の区で自由社教科書が採択され、さらに全市1区採択制度に移行した2011年度・15年度と育鵬社教科書が採択されている。

 いずれも、極右的・歴史修正主義的内容とされるものである。2000年代には「新しい歴史教科書をつくる会」の主導で扶桑社から中学校社会科教科書が発行されて問題になっていた。その後「つくる会」の内部対立・分裂により、いずれも従来の扶桑社教科書の流れを汲む形で、旧執行部派が自由社から、日本会議が背景にいるとされる日本教育再生機構の一派が育鵬社から、それぞれ教科書を発行している。2015年~19年時点では育鵬社が一大勢力となり、横浜市や大阪市など多くの地域を抑えるなどしている一方で、自由社は公立採択地区では採択されず一部私立での採択にとどまっている。

 また育鵬社教科書の採択に対しては、育鵬社を支持する教育委員が強引な採択手法をとったり、育鵬社を支持する勢力が組織的な採択要望活動などの行為をおこなったりなどが、各地で報告されている。

 横浜市については、自由社や育鵬社を支持する当時の教育委員長の意向で、そういう教科書が採択されやすいような採択環境を整えてきたことなど、採択の不透明性が指摘されている。

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 2019年度中学校教科書採択では2015年度の採択を継続するとした答申への反対意見は出なかった。一方で教育委員からは「育鵬社教科書の内容についての意見があることは承知している。今年は暫定措置とし、来年以降しっかりと判断する」「新しい学習指導要領の全面実施に向け、じっくり議論するのが望ましい」とする意見が出された。

 育鵬社の教科書は、歴史修正主義的で、基本用語なども一般的な解釈とは異なる特異な説明がおこなわれているケースも目立つなどの問題が指摘されている。来年度以降ていねいな審議ができるかどうか、引き続きみていく必要がある。

傍聴手法

 数百人規模の傍聴希望者が見込まれたことから、2015年教科書採択に引き続き、傍聴希望者は最大約1000人収容の関内ホール(横浜市中区)に集合した上で、抽選で傍聴者20人を決める手法をとった。教育委員会会議は離れた場所のビルの会議室でおこなわれ、当選者は炎天下を徒歩移動して会議室で傍聴し、外れた人はそのままホールで中継を視聴する手法となった。会議そのものをホールで実施すべきだったのではないかという疑問も出されている。

無記名投票

 横浜市では教科書の採択の際、教育委員の挙手や記名投票ではなく、無記名投票の手法をとっている。これは前述の、育鵬社を支持する当時の教育委員長の意向で導入された手法である。無記名投票方式については、市民団体などから、教科書採択の透明性を阻害しているという批判が起きていた。

 2019年度教科書採択でも無記名投票は継続しておこなわれた。透明性については、まだ十分とはいえない状況となっている。

 その一方で、従来は議論の際、教科書会社の名前を伏せて議論をおこなうことが多かったものの、今回は教科書会社の名前を挙げて質疑をおこなう教育委員が増えたという指摘もある。

 採択の透明性については、引き続き求めていく必要がある。

小学校の採択替え

 小学校については、全教科で採択替えがおこなわれた。

 社会科では前回に引き続き、教育出版が採択された。発行会社3社のうち、教育出版3票、東京書籍2票となった。日本文教出版への投票はなかった。東京書籍小学校社会科教科書の2019年改訂版については、中学校における育鵬社ほどではないとはいえども、特に高学年向け教科書の単元によっては、右傾化とも受け取れるような記述が他社よりも相対的に目立つ傾向があり、警戒の声も出されていた。教育出版については、主に「市町村の範囲を中心とした地域学習(学校周辺や市町村の地理、消防や警察などのしくみ、産業、郷土史など)」を学ぶ3年生向け教科書で、地域の具体的事例としてあげられているのが横浜市でもある。

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 道徳では東京書籍が採択され、前回2017年採択の学校図書から変更となった。

 初めての教科書採択となる英語では、東京書籍が採択された。

(参考)
◎20年度も育鵬社に 歴史・公民教科書採択 横浜市教委(神奈川新聞 2019/8/2)
◎中学の歴史・公民 育鵬社の教科書 継続採択(東京新聞 2019/8/2)