育鵬社教科書・「ヘイトハラスメント」でフジ住宅に改善勧告:大阪弁護士会

 住宅販売会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市)が2015年の中学校教科書採択の際、従業員を教科書展示会に動員するなどして、育鵬社教科書を採択するよう各自治体に会社組織ぐるみでの働きかけをおこなった問題で、大阪弁護士会は7月11日付で、人権侵害にあたるとして同社に対して改善勧告をおこなった。

事件の背景

 フジ住宅の会長は、育鵬社社会科歴史・公民教科書の執筆陣の母体となった「日本教育再生機構」の代表発起人でもあり、同機構とも関係が深い。

 育鵬社の教科書は、歴史修正主義的・復古主義的・極右的といった内容が指摘され、また中学校での学習内容や高校受験での重要内容が欠落していたり一般的な解釈とは異なる特異な説明がされているなどの重大な問題点が指摘されている。

大阪市での2015年教科書採択

 2015年夏(2016年度以降使用)の中学校教科書採択では、大阪市で、採択を決める教育委員会会議に先立って実施された教科書展示会での来場者アンケートで、ほぼ同一内容の文面で、育鵬社教科書の採択を支持する意見が大量に寄せられた。大阪市教育委員会はアンケート回答の筆跡や文面が酷似しているものが大量にあることに気づきながら、教委事務局の責任者は集計担当者にそのまま集計を指示し、「育鵬社教科書の採択を求める声が多く寄せられた」と教育委員会会議に報告していた。

 大阪市では、中学校社会科歴史的分野・公民的分野ともに、育鵬社教科書が採択された。

 教科書展示会での来場者アンケートでは、育鵬社教科書への意見については、大阪市では3分の2前後が「賛成」と集計されていたものの、他地域では育鵬社支持は10分の1もなく、奇妙な状況となっていた。

フジ住宅「ヘイトハラスメント」問題とのつながりが明らかに

 採択を決定した2015年8月の教育委員会会議当時は明らかになっていなかったものの、約1ヶ月後の2015年9月、フジ住宅の「ヘイトハラスメント」問題が報道された。

 「ヘイトハラスメント」問題は、フジ住宅の従業員が、「職場で、職務内容とは無関係なのに、中国や韓国を蔑視する内容の資料を配布・回覧されて読まされるなどして苦痛を受けた」などとして被害を訴えた問題である。

 「ヘイトハラスメント」問題の一環として、フジ住宅が育鵬社教科書採択のために勤務時間中に従業員を動員していた問題も告発された。このことで、ヘイトハラスメント問題と教科書採択問題とのつながりが明らかになり、育鵬社・フジ住宅・大阪市教育委員会の関係が問われることになった。

 大阪市での教科書採択アンケートも、育鵬社の関係者が従業員を動員して、大量に記入して投函したことが明らかになった。その場でマニュアル通りの内容を記載して投函し、備え付けの用紙を一度会社に大量に持ち帰り、会社で同一内容の文面を作って後日再び会場を訪問して投函するなどの手口で、数百枚単位で投函していたという。筆跡も文面も酷似していると指摘された用紙が20枚以上見つかったことも明らかになっている。

 フジ住宅では、「大阪市教育委員会サイドから聞いた情報として、大阪市では、教科書展示会での来場者アンケートが採択の決め手となる」「アンケートで育鵬社教科書採択を希望する声が多いほど育鵬社に有利になる」とする情報が、育鵬社の担当者からもたらされていたとも指摘された。

 一方で大阪市教育委員会では、大森不二雄教育委員長(当時。現・大阪市特別顧問)や、育鵬社の親会社にもあたる産経新聞社出身でフジサンケイグループで幹部を歴任した経歴を持つ高尾元久教育委員(当時)などについて、教科書採択不正問題とのつながりの疑惑や、アンケート処理の不適切さなどへの指摘が出た。両氏とも疑惑は強く否定したものの、いずれも任期途中で辞任している。

 大阪市会では、自民党・公明党・共産党の各会派の市議が、不正疑惑について繰り返し質疑をおこなっていた。一方で、育鵬社教科書など「ふさわしい教科書」の採択を政策として掲げ、そういう教科書の採択を求める申し入れをおこなったこともある維新は、育鵬社教科書不正採択疑惑について市会では一度も発言しなかった。

他地域でも働きかけ

 フジ住宅は大阪市での事例が大問題になったが、他地域についても、従業員が自らの居住地で、育鵬社教科書採択を求めて首長に手紙を送ったり、教科書展示会での来場者アンケートに育鵬社支持の意見を書き込んで投函するなどの行為を奨励していたという。

弁護士会、人権侵害と認定

 大阪弁護士会では、教科書採択動員問題を含む一連のヘイトハラスメントを、人権侵害と認定した。会社側は従業員に対して、育鵬社教科書を支持する行動を取った場合は会社側に報告するよう求めており、従業員が行動をおこなうかどうかで会社内の待遇で差別される恐れが生じるとして、思想信条・良心の自由が侵害される可能性が高いと指摘した。

一連のヘイトハラスメントは人権侵害

 フジ住宅のヘイトハラスメントにかかる一連の行為が人権侵害と判断されたことは、極めて重要であるといえる。

 従業員への人権侵害ということも当然許されないし、また差別や憎悪をあおり立てるようなことも許されない。さらに、育鵬社教科書はこのような人権侵害・ヘイトをおこなう勢力によって支えられているという状況も、極めて深刻なものである。

 当該従業員が提訴した訴訟はまだ係争中とのこと。また前述のように、ヘイトハラスメントと一体の形でおこなわれた大阪市での教科書採択不正疑惑については、十分に解決しているとはいえない。

 引き続き、必要な対応が必要になってくる。